夕立ちのひと


    夏とは気分のことだとあなたは言いました。
    氷でいっぱいのオレンジスカッシュを、ストローで、からからと、回しながら汗をかいたグラスの水滴の数だけやってくるその訪れは、急、いつも。
    甲州街道を走る蝉の声から逃げ込むように地下一階。そうしてエアコンで汗を冷やしながらの三次会。おしゃべり大会。夏とは、そんな気分に最高気温36度が乗るだけであると。ちなみにこのオレンジスカッシュは半分が水で薄められていることが、ここの醍醐味なのであると。
    そう聞いてわたしは、夏が終わることはあなたがいなくなることだと思いました。
    その手に夏がひらくのを見たいな。
    この手にはひまわりを咲かせたい。
    金木犀のセンチメントには耐えられないひと。
    とじられた指の隙間から砕かれた花びらから秋色になるなら、去るひびを惜しむようにあなたからわたしからストローの音からからと、それは九月のさよなら。