雪の話

 
    今朝はよく晴れていて、それなのに雪がちらついていた。雪はずいぶん水分を含んでいるようで、陽にあたるとダイヤモンドダストのように見えた。
 なんて、流暢なことをきのう書いて保存してねむって、目が覚めて、そしたら今朝は、大雪だった。積雪していた。警報まで発令している。
    古都に降る雪はよい。趣がある。なんてまた流暢なことを。
 
 
過ぎた事、選ばんかった道、どれも覚めた夢と変わりやせんな。すずさん、あんたを選んだんは、わしにとって多分最良の現実じゃ。
こうの文代『この世界の片隅に 中』双葉社 P-34
 
 
    わたしにとってあなたは「過ぎた事」で、わたしにとってあなたは「選ばんかった道」だった。
    あなたにとってわたしは「過ぎた事」で、あなたにとってわたしは「選ばんかった道」だった。
    そしてわたしは、「いま」を「あなた」と生きている。
    
    こんなにもたくさんの、たくさんの雪が降るのに、わたしのこのまつげの上に乗るのは数えるほどしかない。わたしはそれを選べない。それでも、そのひとつたちにまばたきをさせられて、目をつむる。そうして目を開けたら、また、無数の雪が見える。わたしを選ばなかった雪は路面に積もって、街を白くする。きれい。きれいだね。
 
    この世界の無数のわたしとあなたがそれぞれ、ただ一つだけ実現したこの現実の中で最良でありますように。
 
 
 2017年1月